ナパの"ステルス"ワイナリー
The Invisible Winery of Napa
【世界の有機的建築を巡る】大地と呼吸するワイナリー、ナパ・ヴァレー「ドミナス・エステート」

偉大な建築とは、風景の一部となり、その土地の風土と対話するもののことを指すのかもしれません。
私たち「オーガニックハウス」が大切にしているフランク・ロイド・ライトの思想。それは、自然を模倣することではなく、自然の理(ことわり)に従い、住まう人と環境が溶け合う空間を創造することです。
今回は、そんな「有機的建築」の現代的な解釈とも言える、カリフォルニア州ナパ・ヴァレーの傑作ワイナリー『ドミナス・エステート(Dominus Estate)』をご紹介します。スイスの建築ユニット、ヘルツォーグ&ド・ムーロンが手掛けたこの建物は、完成から25年以上経った今もなお、普遍的な美しさを放ち続けています。

1:大地から隆起したような「見えない建築」
世界屈指のワイン産地、ナパ・ヴァレー。広大な葡萄畑の中に、静かに、しかし圧倒的な存在感を持って佇む横長の建物があります。それがドミナス・エステートです。
この建築の最大の特徴は、遠景からはまるで風景の中に消えてしまうかのような「ステルス性」にあります。
外壁を覆うのは、通常は河川工事の土留めなどに使われる「ガビオン(蛇籠)」と呼ばれる金網の籠。その中には、この近隣の峡谷から採掘された玄武岩(バサルト)が詰め込まれています。
土地固有の素材(石)をそのまま外壁として利用することで、建物は人工物でありながら、まるで大地そのものが隆起してできたかのような表情を見せます。「その土地に生える植物のように、その場所に根差した建築であるべきだ」というライトの言葉を彷彿とさせる、土地への深い敬意がそこにあります。

2:機能がデザインになる。石壁が叶えた「呼吸」
オーガニックハウスのオーナー様であれば、デザインが単なる装飾ではなく「機能」に基づいていることの重要性をご存知かと思います。ドミナス・エステートの石壁もまた、美しいだけでなく、ワイン造りに不可欠な「機能」を果たしています。
積み上げられた石の隙間は、天然の断熱材として機能します。 日中は強烈なカリフォルニアの日差しを遮り、夜間は蓄えた熱をゆっくりと放出する。この石の壁が「皮膚」のように呼吸することで、セラー内部はエアコンに頼りすぎることなく、ワイン熟成に最適な温度と湿度に保たれているのです。
「形態は機能に従う(Form Follows Function)」。 この建築は、自然のエネルギーを巧みに利用し、サステナブルな環境を作り出す装置として機能しています。

3:木漏れ日のような光の演出
石の詰め方は均一ではありません。ある部分は密度高く詰められ、ある部分は緩やかに。この密度の変化によって、室内に差し込む光の量がコントロールされています。
建物内部から外を見ると、石の隙間から葡萄畑の緑がモザイク画のように透けて見えます。そして日中は、石の隙間を透過した光が、まるで木漏れ日のように床に美しい影を落とします。
逆に夜になれば、内部の灯りが石の隙間から外へと漏れ出し、建物全体が柔らかい行灯(あんどん)のように闇に浮かび上がります。 内と外の境界を曖昧にし、自然の光と風を取り込むその空間構成は、私たちオーガニックハウスが目指す「居心地の良さ」と深く通底しています。

【まとめ】普遍的な価値を持つ住まいへ
流行の素材や奇抜な形を追うのではなく、その土地の石を使い、その土地の気候に合わせて設計されたドミナス・エステート。
完成から時を経ても色褪せることなく、むしろ周囲の自然と共に風格を増していくその姿は、私たちが目指す「世代を超えて住み継がれる家」の理想形の一つと言えるでしょう。
自然に抗うのではなく、自然と共に生きる。 そんな普遍的な豊かさを、あなたの住まいづくりにも取り入れてみませんか。
参考リンク・クレジット
Architecture: Herzog & de Meuron
Location: Yountville, California, USA
Official Website: https://www.dominusestate.com/